OSSとは… 20年前はOpen Sound Systemを意味する略語のことだった。少なくともLinuxコミュニティではそうだった。
Open Sound SystemはUNIX系のプラットフォームで利用できるサウンドシステム(ドライバ)であり、Linuxでは標準サウンドシステムであった。OSSと言えばこれを指しており、当時生まれたばかりのOpen Sourceという新語の略語としてOSSを使うということはほぼなかった。
このOpen Sound Systemは最初フリーソフトウェアであったが、プロジェクトの成功を受けてプロプライエタリ化が進められた。当然の反応として、それに呼応するタイミングでALSAが主流化し、Linuxカーネル2.5以降はALSAがLinuxのサウンド・システムとなっていった。その後、Open Sound Systemは再度フリーソフトウェアに戻るのだが、当然のようにLinuxの標準サウンドはALSAのまま今日まで続いている。
こうした経緯から当時の「OSS」であったOpen Sound Systemは多くの人に忘れ去られ、今日では「OSS」はOpen Source Softwareの略語として世界で認識されていった… と言いたいところだが、実はOSSの三文字でOpen Source Softwareとほぼ認識される国は多くはない。せいぜい日本ぐらいではないだろうか。
各国語で「OSS」とぐぐって見れば分かるが、アメリカではOffice of Strategic Servicesがトップページを占拠する。Office of Strategic Servicesは第二次大戦時に設立された情報機関で現在のCIAの前身組織である。フランスではそれに加えてスパイ小説「OSS 117」の情報が加わり、ドイツになるとオランダの地方都市であるOSSの地図が大きく表示される。極めつけに国をブラジル(ポルトガル語)で検索すると日本の武道の影響からの「押忍」を意味するOSSで全て埋まる。
OSS google search (en_US) OSS google search (fr_FR) OSS google search (de_DE) OSS google search (pt_BR)
この事象はある意味当然で、英語圏ではそもそも「Open Source」という単語だけで我々が知るところの自由なソフトウェアを指し示すので、そもそも「OSS」の三文字目が必要ないのである。我々の業界的にはオープンソースの誕生の経緯で説明できるが、CambridgeやOxford等の英語辞書で意味を調べてみても英語圏で一般的にそのように認識されることを確認できるだろう。また、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、中国語あたりでは現地語化されたOpen Sourceの訳語も存在するという事情もあるので、なおさらOSSと「ソフトウェア」を付け足した略語を書く必要がない。
では、何故日本ではOpen SourceのことをOSSと書くことが割と多いのだろうか?
この問いに関しては、そりゃあ Open Source Software (オープンソース・ソフトウェア)と長々と書くのが面倒だからだろ!で終了するわけだが、では、先に書いたようにOpen Sourceで基本的にはソフトウェアを既に指し示すのに、何故最後のSoftware(ソフトウェア)をわざわざ付け足すのだろうか?これでは、「昼食を食べる」とか「頭痛が痛い」等の重複表現と一緒であり、あまり書き言葉としては適当であるように思えない。
これに関しては前回書いたようにOpen Source(オープンソース)という言葉の使用が拡大されていく内に後ろにわざわざ「ソフトウェア」を付け足すことが広まったのだろうと漠然に思うが、正直それ以上はよく分からない。日本では欧米よりもオープンソースという言葉の受容が遅かったということもあるし、Open Sourceでソフトウェアを指すことが日本人には理解がしにくいという理由もあるのかもしれない。
ただ一つだけこの影響があったかもしれないと考えているのは、1999年にオライリーから発行された「Open Sources」の訳書の存在である。Open Sourcesはオープンソース運動の当事者達(とRMS)が当時とそれまでの歴史を振り返る名著であるが、この日本語訳書のタイトルが実は「オープンソース・ソフトウェア」なのである。オライリーの影響力を考えれば、これが用法としてお墨付きを与えていた可能性はある。正直なところ、フリーソフトウェアをオープンソースで置き換える運動をしているのに、これじゃフリーソフトウェアソフトウェアになってしまうじゃないか… と当時は漠然と違和感を感じていたことは記憶にある。
オープンソースソフトウェア (オライリー) Open Sources(O’Reilly)
とは言っても、もはやオープンソース・ソフトウェアとOSSという用例は国内では完全に広まってしまっているし、私自身もそこには特にこだわりもない。2004年にはあのOSSガラパゴス事件を起こしているので、必要があればOSSという略語も使っていたことが分かる。当時のログを見ると、どうやらオープンソースガラパゴス諸島と書くとMagicPointでタイトルが画面からはみ出てしまうスライドが幾つか出たのでOSSと書いて短く切り詰めていたようだ。
話がグダグダになってきているのでそろそろ締めることにすると、国内ではOpen Source(オープンソース)をわざわざOpen Source Software(オープンソース・ソフトウェア)、OSSと言い換えることはあまり煩いことは言うほどのことではなく、好きに使えばいいんじゃないかと思う。前回も書いたようにオープンと自由が担保されるのであれば(私が何か言っても何も起きないが)私はあまり面倒なことは言わない。ただ、海外ではOSSという略語は文脈から理解はしてくれるが、基本的には使われない表現であることは頭の片隅に置いておくといつの日か役立つこともあるだろう。OSS!
