Llamaライセンス契約を適用するAIモデルを使用する際の多大なリスク

Meta Platforms社のLlamaモデルならびにLlamaライセンス契約(Llama Community License Agreement)がオープンソースに全く該当しないことは既に解説した通りであるが、Llamaライセンス契約にはオープンソースであるか否かという観点において直接的に関係せず、実用に際して予期せぬライセンスの終了にも繋がりかねない幾つかの重大な問題が潜んでいると考えられる。Llamaのオープンソース性に関する論考と重複する部分も多く含まれるが、ここではそれらの問題に対する危険性について雑多に解説する。

なお、本稿はLlama派生モデルの開発やLlamaモデルを自社サービスに組み込もうと検討している企業・エンジニア・コンプライアンス担当者を主な対象としてLlamaモデル利用における潜在的リスクを整理したものであるが、具体的な利用事案への法的助言を提供するものではなく、深い解釈や具体的な実務の助言が必要な場合にはなるべく米国契約法とカリフォルニア州法に精通した専門家に相談することを推奨する。

  1. 一方的な許諾ライセンスとは異なる契約としての性質
  2. 7億MAU制限を企業は無視できるか? 合算での抵触リスクは?
  3. 大企業以外の企業は7億MAU制限は関係ないのか?
  4. 子会社、親会社、関連会社にまでLlama利用規約の遵守が義務付けられているか?
  5. 契約義務と利用規約の遵守はどこまでの範囲で求められるか?
  6. 利用規約が更新された場合は新規の条項も遵守する必要があるのか?
  7. 利用規約が更新された場合にどのようなリスクが考えられるか?
  8. 利用規約の条項は自国の法による解釈をしても問題ないか?
  9. モデルの出力とその出力結果によってトレーニングされたモデルにはLlamaライセンス契約は伝播するのか?
  10. むすび
  11. 参考:
  12. Llama 3.1 コミュニティライセンス契約 日本語参考訳
  13. Llama 3.2 Acceptable Use Policy(利用規約) 日本語参考訳

一方的な許諾ライセンスとは異なる契約としての性質

まず、本稿を書くにあたっての前提として、Llamaライセンス契約の法的な位置付けがオープンソースの考え方で一般的な著作権の許諾ではなく、二者間の商業的な取引上での契約であることに注意しなければならない。Llamaライセンス契約という名称そのものや契約テキスト冒頭における「Agreement」の定義において既に契約だと宣言しているようなものだが、同意ボタンのクリックやLlamaの利用によってライセンシー側が契約に拘束されることを同意させる仕組みになっていること、ならびに契約テキストの各所でMeta社に発生する知的財産権に基づく権利以上の制約をライセンシー側へ課していることなどから、明らかに著作権等の許諾というよりも契約としての体裁が備わっている。実際、Meta社からのモデルのダウンロードに際しては利用者側のサインが求められるので、著作権ライセンスではなく米国の契約法に基づくMeta社と各ライセンシー間における二者間の合意による商取引の契約という体裁とが整っていると見做すべきだろう。

オープンソースとは、ソフトウェア等の著作物において複製、翻案、頒布、公衆送信等の各国における著作権法および類似の法上で規定された権利を行使する利用行為への自由を与えるライセンスもしくはそれらのライセンスが適用されたソフトウェアであり、これを言い換えれば、各国の著作権法上で認められている権利者がある種の利用制限をかける権利に対して自由に利用できることを宣言する法的手段である。著作権表記や二次的著作物におけるライセンスの継承等の義務とされるものは、この自由な利用のための条件に過ぎない。米国での幾つかの訴訟の結果により、契約としての強制力が認めらてきているのは事実であるが、一般的なコンプライアンスの実務上は単に一方的な自由利用の宣言をしているとみなしており、そこに契約手法的な同意や対価というものは存在しない。

一方、Llamaライセンス契約は、Meta社と利用者の双方に合意に基づいて対価(約因)の交換がなされたと解釈するべきであり、AIモデルの利用を利用制限と利用規約の遵守を確約することで契約が成立していると考えられる。著作権ライセンスは著作権に依拠することから著作権の効力が及ぶ範囲でしか制限をかけることはできないが、契約法に基づくことによって契約当事者の双方の合意をもって知的財産権の範囲を超えた領域まで取引の範囲が拡張され、また相互の義務の法的な強制力が高められているとも言えるだろう。

さらに、契約法に基づくことで文字通りの契約テキストを超えた拡張が行われる可能性も考慮しなければならない。Llamaライセンス契約の準拠法はカリフォルニア州法と規定されているが、契約にやや曖昧な条文があったとしてその解釈は基本的に当事者の意図に即したものとなり、契約テキスト内の一つ一つの文言の意味は厳密な法的意味ではなく、一般的な意味で理解されなければならない。例えば、契約テキスト上では直接的に何らかの行為を制限する内容の文言が含まれていないとしても、それと類似の行為が制限される条項があったり、契約全体の意図としてその行為を制限していると読み取れるような場合にはその行為が制限されることを裁判所が支持する場合があり得るということである。付与した瞬間に利用者の権利が確定するオープンソースのようなライセンスとは全く世界が異なると考えなければならない。

7億MAU制限を企業は無視できるか? 合算での抵触リスクは?

Ans: 7億MAU制限は、一般的に考えられている範囲より多くの企業へ影響し、無視することができないだろう。

セクション 2 条文
“If, on the Llama 3.1 version release date, the monthly active users of the products or services made available by or for Licensee, or Licensee’s affiliates, is greater than 700 million monthly active users in the preceding calendar month, you must request a license from Meta …”
(Llama 3.1のバージョンリリース日において、ライセンシーまたはライセンシーの関連会社によって、もしくはライセンシーまたはライセンシーの関連会社に対して提供される製品またはサービスの月間アクティブユーザー数が直前の暦月において7億人を超える場合、あなたはMetaからのライセンスを要求しなければならず、)

Llamaライセンス契約のセクション2はそのまま月間7億MAUのユーザーを抱える企業はLlamaモデルをMeta社の許諾なしでは使用できないと規定している。本邦においては、このセクション2はオープンソース性の議論では触れられるものの、月間7億という数字の巨大さから米国と中国の巨大IT企業の数社のみが対象として考えられ、いわば対岸の火事のような感覚で見られているように思う。しかし、本当にその他の国の大企業には関係のない条項なのだろうか?

このセクション2をよく見ると、この制限はLlamaを採用するサービス若しくはプロダクトのユーザー数に対する制限ではなく、利用者となる企業全体に対する制限であることが読み取れる。そして、「Licensee’s affiliates」という表現から利用者である企業の子会社や親会社も含まれることも分かる。affiliatesという用語に対しての定義は契約テキスト内に存在しないが、一般的には50%以上の持分関係で繋がる全ての子会社や親会社が抱えるユーザーも考慮しなければならないということになるのだろう。米国法準拠の契約であれば、厳密には親子関係以外にも取引上のパートナーシップや、共同出資のジョイントベンチャー的な関係もaffiliatesとされる場合があるので、50%以上の資本関係で繋がる全ての企業群と考え方は最低限のラインだと考えねばならない。つまり、単純に考えれば2億MAUを抱えるサービスが4社存在し、それらが50%以上の資本関係で繋がっている場合、全て合算すると8億MAUということでセクション2への抵触を心配せねばならないだろう。

ここで、2億MAU x 4社で8億MAUとなるのは重複を無視していて乱暴だという主張が出てくるだろう。というより、それが妥当な考え方だろう。実際、ライセンサーとしての当事者であるMeta社は2024年度の数字で自社のMAUを月間40億MAUと発表しているが、その内訳としてFacebook 30億MAU、WhatsApp 20億MAU、Instagram 20億MAUとも発表しており、これは明らかに各サービスのMAUの合算数字よりも小さな数字を企業全体のMAUとしていることになる。少なくともMeta社は何らかの方法でユーザーの重複を省いていると考えられるが、これを業界標準とするなら同様の方法でユーザーの重複を排除することが合理的な判断と考えられる。しかし、異なるシステム間において同一ユーザーと明確に判断する方法がないような場合やシステムのアカウントを使用しないメディアサービスのユーザー数はどのように考えれば良いのだろうか?単なるWebメディアの場合はトラフィックの分析ツールの数字をそのまま合算する方がビジネス上合理的な判断とされるのではないだろうか?

また、ライセンシーが日本企業であれば、日本の人口1.2億人なのでそれをMAUが上回ることはないという主張もあるかもしれない。このような主張は通信回線が必要な通信サービスや完全に日本国内の事情に合わせたサービス等であれば有効である可能性がある。ただ、前述のMeta社全体での40億MAUという数字を考えてみてほしい。世界人口は80億人であり、Meta社のサービスが規制される中国の人口は約14億人、世界の13歳未満の人口は約20億人といった数字を考慮すると、Meta社サービスを利用可能な世界の人口の80%以上がMeta社のサービスを月に一度は使用していることになる。自分はそこに含まれていない側の人間であるので偏見があるかもしれないが、正直な所、実際の人口と比較するとかなり過大な数字であるように思う。複数アカウント、ビジネスアカウント、バックアップやボット等がこの過大とも言える数字を作り上げているのだと考えられるが、つまりMeta社としては、MAUにおけるユーザーとは一意の個人を指すのではなく、アカウントのアクティビティに基づいていることを示している。そして、これはソーシャルプラットフォーム業界の標準的な慣行でもあるのだろう。となると、日本の人口1.2億人というリアルな人間に依存して上限を申告してしまう仕組みは、オープンなプラットフォームやサービスであれば特に意味をなさないことが分かる。

ここまでを総合すると、特定の巨大IT企業以外の企業グループであっても、総体として巨大なコングロマリット的な企業グループを形成し、各グループ企業においてアカウントやユーザーの重複を判定する仕組みが乏しく、幾つかの国にまたがってユーザーを獲得しているサービスを保有しているグループ企業が存在する場合、Llamaを利用する当事者となる企業が意図せずにセクション2の7億MAU制限に抵触する可能性は否定できないのではないかと考えられる。

実際、東欧を中心に8億MAUを記録する通話サービスアプリを展開する企業を海外子会社に持つ電子商取引を中心とした日本の企業グループはセクション2に抵触すると考えられるし、5億MAUを記録する求人サイトを運営する米国の子会社を保有する人材情報サービスを中心とする企業グループも他のサービスとの合算で7億MAUの制限を越える可能性が高いのではないだろうか?他にも幾つか7億MAUの制限にかかりそうな企業グループは存在するが、そのような企業グループに属する企業はMeta社の別途の許諾がない限りはLlamaを利用すべきではないだろう。

なお、企業グループ内のMAUを色々細かく数字を整えて何とか7億MAU以下にみせかける資料を作って備えたとしても、例えばCEOやCFOが業績発表会等で7億MAUを越えていることを公言していた場合、それは米国法における「利益に反する自白」(Admission against interest)として扱われ、訴訟において他の証拠よりも重要な非常に強い証拠となり得ると考えられる。結局のところ、Meta社からすれば自社を脅かす程度にまで成長しそうな企業にはLlamaを無料で使わせたくないのであり、ここでの検討は特に関係なく、Meta社の一存で「制限を超えているので契約終了」と主張する権限を契約で持たせている以上、大きなコングロマリットを形成する企業グループ内でLlamaを利用することは避けたほうが無難なのだろう。

大企業以外の企業は7億MAU制限は関係ないのか?

Ans: 中小規模の企業が7億MAU制限に全く関係ないとは言い切れない。

このセクション2による制限を受ける企業グループならびに予備群企業グループの企業に属していないので問題ないという考え方も少し外れており、Llama派生モデルやサービスを開発する企業が合併や買収を実行する際に巨大企業を相手にできないという問題が発生するだろう。会社を売却したいと考える企業にとってM&A先となる企業を絞られてしまうことはLlamaモデルを利用すること事態がリスクになるだろう。

また、例えばLlama派生モデルを開発し、それを利用するシステムやソリューションを巨大な企業グループに納入するといった場合、その納入先となる企業がLlama派生モデルを使用する権利はMeta社とのLlamaライセンス契約に基づくので、その時点で7億MAU制限に抵触するリスクを考慮しなければらならない。セクション 1.b.iiにおいて「統合エンドユーザー製品の一部としてLlamaマテリアルまたはその派生作品を受け取った場合」は、セクション 2における7億MAU制限の適用外となることが規定されているのだが、契約テキスト上ではここでの統合エンドユーザー製品という用語が詳細に定義されていないものの、少なくともネットワーク越しのサービスであるとか、あるいは完全にパッケージ化されている製品において、組み込まれているLlamaマテリアルに対して顧客側が直接的にLlama派生モデルへアクセスする権限を有していない場合を指すケースに限定した例外規定と考えられる。つまり、ベンダー側が構築を行ってLlamaモデルを含むシステムの運用は顧客側で継続するようなケースには該当しないと考えられる。これは日本企業では特に注意すべき点なのだろう。

子会社、親会社、関連会社にまでLlama利用規約の遵守が義務付けられているか?

Ans: 関係会社にまで義務が波及することが確実とは言い切れないが、ケースによって事実上全てのグループ内企業へLlama利用規約の遵守が義務付けられるだろう。

Llamaライセンス契約のセクション 2では、ライセンシー側における7億MAUという閾値での使用制限を課しているわけだが、そのMAUの計測範囲は「ライセンシーの関連会社(Licensee’s affiliates)まで明示的に含んでいる。ここでの関連会社は50%以上の資本関係でつながる企業グループ全体を指すと考えられるが、Llamaライセンス契約のテキスト内にこれ箇所以外の関連会社という意味合いを含む表現は存在しない。このことから、あくまでMAUを計測する際だけ子会社や親会社の存在や状況を気に掛ける必要があるという解釈をしがちになる。

セクション 1.b.iv 条文
“iv. Your use of the Llama Materials must comply with applicable laws and regulations (including trade compliance laws and regulations) and adhere to the Acceptable Use Policy for the Llama Materials (available at https://llama.com/llama3_1/use-policy), which is hereby incorporated by reference into this Agreement.”
(iv. あなたによるLlamaマテリアルの使用は、適用される法律および規制(貿易コンプライアンスに関する法律および規制を含む)を遵守し、Llamaマテリアルに関する利用規約(https://llama.meta.com/llama3_1/use-policy で入手可能)に従う必要があります。このポリシーは、参照することによって本契約に組み込まれます。)

しかし、これを契約内の他の条項と併せて読むと様相が異なってくる。セクション 1.b.ivでは、Llamaマテリアルの使用に際して利用規約(AUP: Acceptable Use Policy)を遵守することが求められている。この条文だけではあくまでライセンシーだけを対象としているように読めるが、セクション 2と併せて読むと「あなたによるLlamaマテリアルの使用」(Your use of the Llama Materials)には関連会社による使用も含まれるのではないかという疑問が出てくる。

実際、多くの企業グループにおいては、一つのソフトウェア若しくはサービスのエンタープライズ契約を同じ企業グループ内の複数の企業で共有することはよくあることである。開発子会社等として本社から分離しているような企業グループの場合、親会社の契約に子会社分の利用も契約へ組み込むことはソフトウェア業界ではよくある慣行ではないかと思う。これはLlamaのようなAIモデルにおいても同様であると考える方が自然であるだろうから、Llamaモデルを利用するシステムをLlamaライセンシーである会社とその子会社や親会社が共有し、利用することをあり得ることである。この場合、Llamaモデルを共有する子会社や親会社は事実上Llamaマテリアルのユーザー若しくは共同の頒布者ということになり、Llama利用規約への遵守義務が伝播することになるだろう。そもそも、LlamaモデルをMeta社からダウンロードし、何らかのシステムへ利用した当事者ではないとしても、その派生モデルを親会社等が共有しアクセスできるのであればモデルを使用を開始した時点でその親会社もMeta社との契約関係になるので、関係会社にも利用規約の遵守義務が発生することはLlamaライセンス契約の伝播性の観点からも当然のことと言える。

一方、50%以上の資本関係で結ばれている企業のそれぞれが全く独立した経営がされていることもよくあることである。このような場合、一方の会社がLlamaモデルを利用しているからといってもう一方の会社もそのモデルによるシステムを共有しているという可能性は低く、また、独立した関係性であることが外部からもわかりやすく一般に周知されている場合には問題となることはほぼないのでないかと考えられる。

ただし、資本的に親子関係である場合に当事者間においては相互に独立した関係であると認識していても、その関係性がMeta社からも分かるようになっているわけではない。同じ企業グループに属しているのであればLlamaマテリアルが内部で共有される可能性を疑うことは当然にあり得ることであり、ライセンシーである企業とは別の同じ企業グループに属する企業においてLlama利用規約に抵触するような行動に対して何らかのAIモデルが関与していることが明らかであれば、やはりLlamaマテリアルが内部で共有されていると外部から推測されるわけである。Llamaライセンス契約のセクション 6では利用規約に違反した場合にMeta社の裁量による即時の契約の終了を認めており、Meta社が企業グループに属する企業群を同一のエンティティとみなして契約の終了を主張することはあり得ると考えられる。このMeta社による契約終了の行動が訴訟に発展したとしても、セクション 2での関連会社までを含めた制限やセクション 1.bにおけるライセンス契約の伝播性を考慮すると、企業グループ全体を同一のエンティティとみなす主張を裁判所が支持する可能性はそれなりに高いのだろう。

よって、日本によくあるITコングロマリット的な企業グループ内の企業においては、グループ全体でLlama利用規約で書かれているような利用法に抵触する行為をしていないかどうかを監視し、相互にその情報を共有していく必要があるのだろう。おそらく、これはLlamaだけの問題に留まらず、他のAIモデルでも同様ではないかと考えられる。

契約義務と利用規約の遵守はどこまでの範囲で求められるか?

Ans: 契約上の義務事項はライセンシーだけを拘束するが、利用規約の遵守義務はその範囲を越えてLlamaを利用するサービスのエンドユーザーにも影響する。

オープンソースのライセンスは基本的にライセンサー側による著作権の一方的な許諾であり、許諾の条件となる事項の遵守義務は対象となるソフトウェアを著作権法上で規定される権利を行使する態様、すなわち複製、頒布、翻案、公衆送信等の行為を行う際に利用者を拘束すると言える。つまり、全ての人々にあらかじめ権利の許諾が与えられた状態であり、単純な使用者である場合には基本的な原則としては何も拘束されず、著作権法上で認められた利用行為に及ぶ場合にのみ義務が発生する。

一方、Llamaライセンス契約は、Llamaダウンロード時の同意ボタンのクリックまたはLlamaマテリアルの一部若しくは要素を使用若しくは頒布を行なった場合にMeta社と利用者側に契約が締結されるという体裁になっている。この場合、Llamaをダウンロードした者および使用者全てがMeta社と二者間の契約関係となり、Llamaライセンス契約に従った義務事項に拘束されることとなる。

この両者は単に最初の開発元からダウンロードして使用するまでは遵守する義務に違いはあるものの形式的には大差はない。ただ、ライセンスの効力が及ぶマテリアルを他社へ頒布する場合、後者は第三者から頒布を受けたライセンシーはMeta社から直接入手していないにも関わらずMeta社との契約関係となる。つまり、この頒布の繰り返しによる連鎖の過程において元のLlamaモデルとは異なるLlama派生モデルとして改変されたとしても、この派生モデルを使用する者はそのモデルを使用した時点でMeta社とLlamaライセンス契約を締結することになる。このような派生モデルを含むLlamaマテリアルを使用する者全てに契約の遵守義務が及び、さらにさながらコピーレフトのように派生モデルにもLlamaライセンス契約が伝播されるということで、契約の遵守義務の連鎖が拡張されていく仕組みとなっている。

ただし、Llamaの普及によっていくら契約の連鎖が発生したとしても、契約テキストに直接書かれている譲渡不可やLlamaブランドに関する制限等はあくまでLlamaマテリアルの使用者が遵守すべき義務に過ぎない。単に派生モデルを使用しているだけでもMeta社と契約関係にはなるが、ブランド制限等は基本的に頒布若しくは公衆送信等の利用行為に及ばない限りは気にする必要はないはずである。

しかし、契約に「参照によって組み込まれている」利用規約については、そもそも利用規約がモデルを使用するに際しての禁止事項を列挙したものであるという性質から全てのライセンシーが遵守する義務を負うことになる。このライセンシー側の利用規約の遵守義務は当然ではあるのだが、この利用規約の遵守は契約の連鎖よりもさらに拡大した範囲へも連鎖すると考えられる。何故なら、派生を含むLlamaモデルを何らかのシステムやサービスに組み込んだ場合、そのサービスを単に使用する顧客にも事実上Llama利用規約の遵守義務が発生すると考えられるからである。

仮にLlamaモデルを組み込んだ何らかのサービスが存在したとして、そのサービスの顧客に直接的にLlamaモデルへアクセスする手段がなければLlamaライセンス契約が顧客へ伝播することはなく、契約上の義務は発生しない。このケースではLlamaモデルを使用しているのはサービス側であり、その顧客がLlamaモデルを使用しているわけではないからである。しかし、そのサービスのベンダー側はLlamaライセンス契約に基づいてLlama利用規約を遵守しなければならないわけであり、顧客の行動に依拠するものであろうがLlamaモデルの挙動によってLlama利用規約に違反する行為がなされることを防止しなければならない。つまり、顧客の行動を制御しなければならないのである。このような顧客の行動を防止するには技術的な手段も当然あるが、最も根本的な手段としてはLlama利用規約と全く同一の内容をそのサービスの利用規約へ含めてしまうことである。これによって、そのサービスの顧客にも事実上Llama利用規約の遵守義務が発生することになる。

このような単なるサービスのエンドユーザーへの利用許諾遵守義務が発生することにより、Llamaの利用が拡大するに従って、Llamaを採用するシステムを介したLlama利用規約への遵守義務の連鎖が再現なく拡大することが考えられる。これは通常のソフトウェアのライセンスの影響範囲をはるかに越えてMeta社が自身の制御を及ぼすことが可能な範囲を世界的に拡大させることに繋がるだろう。

利用規約が更新された場合は新規の条項も遵守する必要があるのか?

Ans: Meta社によって更新された内容は、その更新の都度遵守する必要があると考えられる。

セクション 1.b.iv.条文
“iv. Your use of the Llama Materials must comply with applicable laws and regulations (including trade compliance laws and regulations) and adhere to the Acceptable Use Policy for the Llama Materials (available at https://llama.com/llama3_1/use-policy), which is hereby incorporated by reference into this Agreement.”
(iv. あなたによるLlamaマテリアルの使用は、適用される法律および規制(貿易コンプライアンスに関する法律および規制を含む)を遵守し、Llamaマテリアルに関する利用規約(https://llama.meta.com/llama3_1/use-policy で入手可能)に従う必要があります。このポリシーは、参照することによって本契約に組み込まれます。)

Llamaライセンス契約のセクション 1.b.iv.には、Llama利用規約が参照によって契約に組み込まれることが明記されている。この参照によって組み込まれるという意味を、「契約テキスト冒頭に記述されている日付またはLlamaマテリアルをダウンロード若しくは使用を開始した日付をもって利用規約が組み込まれており、その時点における利用規約の内容が有効」と解釈する方もいるようであるが、それは間違いである。指定されているURLに置かれている利用規約の文書が常に有効な利用規約となると考えねばならない。

これは契約法の概念に基づくが、Llamaライセンス契約に同意した際、ライセンシー側はその時点で存在していた利用規約に従うことに同意するだけではなく、利用規約の将来の変更に応じてそれにも従うという継続的な義務にも同意したことになるからである。つまり、この継続的な義務と引き換えとしてLlamaマテリアルを利用する権利を受け取っているわけである。これは特に珍しい形態の契約ではなく、例えばクレジットカードや保険等の契約においては、その時々の情勢や時代の変化に合わせて規約が改正され、規約の改正が発表された後にそのサービスを継続して使用することで新しい規約に同意したとみなされる。AI領域においてはLlama以外にも利用規約のあるライセンスは存在し、また、各国での法規制が進んでいるという状況も考慮すると、新たなリスクや懸念事項の出現に応じて利用規約を変更していく必要があるという主張を強化することになるだろう。つまり、新たな懸念が生じる度に利用規約を強化し、ライセンシーに遵守を求めることが正当化される。

もちろん、Meta社によって恣意的または著しく信義則や公平性に欠ける利用規約の変更にはある程度の法的な制限がかかるが、契約の本来の目的のために合理性があり、取引の性質を根本的に変えるものではない内容であって、また、その変更がライセンシー側へ明確な方法で伝達されているのであれば、利用規約の変更が係争になったとしてもMeta社側による変更を裁判所が支持する可能性が高い。カリフォルニア州法に基けばこのような規約の更新に対して、「双方の合意よりも明確な通知」、「ユーザー保護よりもビジネス上の合理性」が重視され、通知期間も一般的には消費者保護を重視した日本法での感覚よりも短い期間になると考える。つまり、Llamaの利用者は、Llama利用規約はMeta社がいつでも変更できるということを考慮に入れ、特に日本企業においては日本法での常識的な感覚に囚われないことに注意する必要があるだろう。

利用規約が更新された場合にどのようなリスクが考えられるか?

Ans: Meta社はいつでも特定企業に対して不利益となる行為を強いたり、使用の停止へ追い込む条項を利用規約へ追加することができる。

Llama利用規約ではおおまかに特定コンテンツの生成、使用者の操作、他のツールやシステムとの統合といった観点において、違法若しくは公序良俗に反するような行為を禁止しているが、Meta社の立場から合理的かつ中立的で安全性に考慮したという外形を保ちながら特定企業に多大な不利益を与える条項を利用規約へ追加することが可能となっている。

例えば、安全性や法令遵守を名目としてLlama組み込みのシステムにおいて使用者の行動の完全なログの保存、厳格なコンテンツフィルタリングや分析ツールの導入といった事項を義務付けて、ライセンシー側のLlama使用継続のためのコストを引き上げることができるだろう。そのような義務と共に、事実上Meta社が承認したツールだけをそのような規約遵守のために利用できるようにすれば、さらに多くの対応コストをライセンサーに課すことが可能になる。このような制限は一見合理的な透明性の要件に見えるので非常に厄介である。

このような技術的な要件とは異なる法域や文化的な慣習の違いを利用した制限を課すこともできるだろう。例えば、「モデルの出力は、架空の人物の描写に関しても米国のコンテンツ基準に準拠する必要がある」という条文が利用規約へ追加された場合、アニメ、漫画、ゲームといった日本のエンターテインメント業界に不当な影響を与える可能性が生じると推測されるが、条文そのものはコンテンツの安全対策のために合理的であると考えられるだろう。既に日本国内では合法であり一般的に倫理的な問題のないコンテンツ取引を問題視してVISAカードの取引停止といった事案が発生しているが、それと構図的にはよく似た事案が発生する可能性があるだろう。

“h. Engage in any action, or facilitate any action, to intentionally circumvent or remove usage restrictions or other safety measures, or to enable functionality disabled by Meta”
(使用制限またはその他の安全対策を故意に回避または削除する行為、または無効化された機能を使用可能にする行為を行うこと、またはそのような行為を助長すること)
“5. Interact with third party tools, models, or software designed to generate unlawful content or engage in unlawful or harmful conduct and/or represent that the outputs of such tools, models, or software are associated with Meta or Llama 3.2”
(違法なコンテンツの生成、違法または有害な行為を目的として設計された第三者のツール、モデル、ソフトウェアと相互に作用すること、および/または、そのようなツール、モデル、ソフトウェアの出力がMetaまたはLlamaに関連していると表明すること)

Meta社がそのような暴挙に出るわけがないという楽観的な考え方もできないわけではないし、既にリリース済みのLlamaのバージョンの利用規約の条文がリリース後に追加で更新されたケースは現状の所はない。しかし、Llama 3.2が公開された際に、Llama 3.1の利用規約と比較して何箇所かの条項が特段の予告なく追加されており、しかもそれらの新規の条項はAIの安全性に考慮した合理的な条文に見えつつも、通常は正当と考えられる行為を不当に制限しかねない内容となっている。

利用規約 1.h.はMeta社側がLlamaモデルへ施した技術的な制限を回避する行為を禁止するものであるが、これはLlamaモデルの挙動を調査若しくは研究する行為を禁止するものとも受け取れる。ライセンサー側がLlamaの安全性を調査する目的で技術的制限を回避したとしても、Meta社側はこの条文を根拠として契約を終了させることができるわけである。また、利用規約 5.は有害な行為を目的とするツールとの連携自体やそれによる出力をLlamaに由来すると表明することを禁止するものであるが、有害な行為がMeta社の恣意的な判断に依拠するというリスクがあると同時に、そもそもLlamaと連携した有害ツールによる出力をLlama由来と表明できないというのは、かえって安全性向上には寄与しないだろう。むしろ、Meta社側が単に恣意的に契約終了できる範囲を拡大させておきたいだけのようにも見える。

“With respect to any multimodal models included in Llama 3.2, the rights granted under Section 1(a) of the Llama 3.2 Community License Agreement are not being granted to you if you are an individual domiciled in, or a company with a principal place of business in, the European Union.”
(Llama 3.2に含まれるマルチモーダルモデルに関して、あなたがEUに居住する個人または主たる事業所をEUに置く企業である場合、Llama 3.2コミュニティ・ライセンス契約のセクション1.aに基づいて付与される権利はあなたへ付与されません。)

利用規約 1.h.と5.について百歩譲って正当化できるとしても、マルチモーダルモデルに関してEU市民と企業を排除する条文に関しては、Llamaライセンス契約における重大な罠の存在を浮かび上がらせる。

利用規約は通常ソフトウェアの使用法に関しての制限を列挙したものであり、Llama利用規約でも基本的にはライセンシー側が守るべきルールが書き連ねられている。しかし、このEU市民に対しての条項は、そもそもモデルを使う権利が付与されなく、つまりライセンシーとはならないとされているのである。使用のための許諾を与えるか否かということはLlamaライセンス契約の仕組みであれば契約テキスト側に記述されるべき事項であると思われるが、このような条項まで利用規約に記述することで、Meta社自身がいついかなる場合においても任意で特定の組織や集団による派生を含むLlamaマテリアルの使用を停止させる権限を持っていることが誇示されているということである。本条項はEUのAI規制を嫌ったものであることは彼らの動機として理解するが、このEU市民排除の条項は、Meta社が気に入らない国、企業、集団はいつでもLlamaの使用を停止させられるリスクがあることを示している。

なお、Llama利用規約は基本的には禁止行為を列挙したものであるが、前述までに解説した罠を利用すれば、Llamaライセンス契約とは別のプロプライエタリな契約へ誘導することもできるだろう。これはオープンソースの世界でもデュアルライセンス、オープンコア等のビジネスモデルで見られるアプローチであり、Meta社がコンプライアンスの維持を名目として料金徴収へシフトすることは特に不自然な行動とは言えないだろう。

利用規約の条項は自国の法による解釈をしても問題ないか?

Ans: 米国法や米国の慣習、慣行に従うことが基本となる。

セクション 7条文:
“7. Governing Law and Jurisdiction. This Agreement will be governed and construed under the laws of the State of California without regard to choice of law principles, and the UN Convention on Contracts for the International Sale of Goods does not apply to this Agreement. The courts of California shall have exclusive jurisdiction of any dispute arising out of this Agreement.”
(7. 準拠法および管轄権: 本契約は、法の選択に関する原則に関わらず、カリフォルニア州法に準拠し、解釈されるものとし、国際物品売買契約に関する国連条約は本契約には適用されないものとします。本契約に起因する紛争に関しては、カリフォルニア州の裁判所が排他的管轄権を有するものとします。)

Llamaライセンス契約のセクション 7には上記のように「法の選択に関する原則に関わらず」カリフォルニア州法が準拠法となることが明示されている。この文言は他の法域の法を適用する可能性を排除しており、例えば日本の裁判所での訴訟を阻止する効果があると考えられる。利用規約については、契約に参照によって組み込まれていることから契約の一部として機能するものと考えられることから、当然のように利用規約もカリフォルニア州法によって解釈する必要がある。

日本法と米国法及びカリフォルニア州法を比較すると、知的財産権や契約法に関しての解釈の違いがある他、これまでの利用規約の改変の解説でも前提としたようにシュリンクラップやクリックスルー契約の有効性についても違いがある。一方的な条件変更に対する厳格な見方がされる日本法を基準にするとリスクを軽視しがちとなる可能性があるだろう。つまり、前項で解説した法域や文化的な慣習の違いを利用した制限が利用規約に組み込まれた場合には、即座にカリフォルニア州法に基づいた判断をしなければならないことになる。特に日本のネット界隈においてはアニメキャラクター等における未成年の架空の人物の描写についての各国での扱いの違いについて議論となることがあるが、他にもプライバシー情報やデータ保護、コンテンツモデレーション等でも各国での文化若しくは慣習的差異が顕在化する可能性があるのではないかと考える。

ともかく、米国外の企業であってもカリフォルニア州法に従って利用規約を解釈する必要があり、Llamaマテリアルを利用するサービスを一般へ展開する場合においてもエンドユーザーに対してもその解釈に従って利用を制限しなければならない。日本の単なるLlamaをバックエンドにしたシステムのエンドユーザーであってもカリフォルニア州法基準の規約に従うことになるが、Llamaライセンス契約の仕組み上はそうなるし、Meta社としても一つの規約の解釈で運用できるという合理性があると考えられるだろう。

モデルの出力とその出力結果によってトレーニングされたモデルにはLlamaライセンス契約は伝播するのか?

Ans: Meta社側では特に明言していないようであるが、Llama出力による合成データを利用してもLlamaライセンス契約が伝播するという主張を採用していると考えられる。

“Llama 3.2” means the foundational large language models and software and algorithms, including machine-learning model code, trained model weights, inference-enabling code, training-enabling code, fine-tuning enabling code and other elements of the foregoing distributed by Meta at https://llama.com/llama-downloads.
(「Llama 3.2」とは、Metaが https://llama.meta.com/llama-downloads で頒布する機械学習モデルコード、トレーニングモデルの重み、推論を可能にするコード、トレーニングを可能にするコード、ファインチューニングを可能にするコード、およびこれらに付随するその他の要素を含む、大規模言語モデルおよびソフトウェアおよびアルゴリズムを指します。)
“Llama Materials” means, collectively, Meta’s proprietary Llama 3.2 and Documentation (and any portion thereof) made available under this Agreement.
(「Llamaマテリアル」とは、本契約の下で提供されるMeta独自のLlama 3.2およびドキュメンテーション(およびその一部)を総称して指します。)

この結論を説明するために順序立てて述べる。先ず契約テキスト冒頭の定義では、Llama 3.2とLlamaマテリアルは上記にように定義されている。「Llama 3.2」がウェイト、コード、アルゴリズムを含むモデルそのものを指しており、「Llamaマテリアル」とはそれらのモデル全体とドキュメンテーションを総称している。これは、モデルそのものとドキュメント全体を合わせた全体若しくはそれらの任意の部分を指していると解釈する者もいるが、実際には”collectively”という用語の効果により、Llama 3.2のモデルとドキュメントという二つの要素を含むもののそれらに限定されないと解釈される。これによって、トレーニングデータ、派生モデル、又は知的財産権が及ばないAPIアクセスや技術サポートといった様々な要素までLlamaマテリアルに含まれることを可能としている。

“i. If you distribute or make available the Llama Materials (or any derivative works thereof), or a product or service (including another AI model) that contains any of them, you shall (A) provide a copy of this Agreement with any such Llama Materials; and (B) prominently display “Built with Llama” on a related website, user interface, blogpost, about page, or product documentation. If you use the Llama Materials or any outputs or results of the Llama Materials to create, train, fine tune, or otherwise improve an AI model, which is distributed or made available, you shall also include “Llama” at the beginning of any such AI model name.”
(i. あなたがLlamaマテリアル(またはその派生作品)またはLlamaマテリアルを含む製品やサービス(他のAIモデルを含む)を頒布もしくは利用可能にする場合、あなたは (A) 当該のLlamaマテリアルとともに本契約書の写しを提供し、(B) 関連するWebサイト、ユーザーインターフェース、ブログ投稿、概要ページ、または製品ドキュメントに「Built with Llama」を明示的に表示しなければなりません。LlamaマテリアルまたはLlamaマテリアルの出力若しくは結果を使用して、AIモデルを作成、トレーニング、ファインチューニング、または改良し、それを頒布する場合、そのAIモデル名の先頭に「Llama」を含めるものとします。)

そして次に、セクション 1.b.i.における「LlamaマテリアルまたはLlamaマテリアルの出力若しくは結果を使用して、AIモデルを作成、トレーニング、ファインチューニング、または改良し、それを頒布する場合」という下りが最も重要であり、ここでは「Llamaマテリアル」と「Llamaマテリアルの出力若しくは結果」を並列に並べる形で双方にモデル名の先頭にLlamaを含める義務を課している。このモデルとモデルの出力を並列にすることで双方が同じ義務を負っていることが効果的に強調されており、契約範囲が出力や結果にも及ぶことが明確化されていることになる。ライセンス義務は出力及び結果の部分に関しても全く等価であることから、「出力若しくは結果はLlamaマテリアルに属する」という内容の文言が契約テキスト上に存在せずとも出力がLlamaマテリアルの一部としてライセンスを継承すると考えられる。

この解釈は、セクション 1.b.iv.の「Llamaマテリアルの使用は、適用される法律と規制を遵守し、利用規約に従う必要があります」という内容でも強化される。何故なら利用規約は出力や結果の利用に対して規定しているからである。さらに、セクション 5.c.には、「LlamaマテリアルまたはLlama 3.2の出力や結果、またはいずれかの一部があなたの所有またはライセンス付与可能な知的財産権またはその他の権利を侵害していると申し立てる場合」という文言もあるが、これは出力に関する潜在的な侵害の申し立てをモデル自体に関する申し立てと同列に扱っており、Meta社がモデルの出力を法的に同一視していることを示唆していると言える。これらの論理は米国の契約法上で問題なく説明される論理だと考えられるが、実際、Meta社はLlamaモデルを様々なベンチマークテスト的な評価コードによってテストした結果をHugging Face上でデータセットとして公開しており、それらのデータセットにはLlamaモデルのバージョンに合わせたLlamaライセンス契約が適用されている。これはMeta社自身がLlamaライセンス契約が出力にも及ぶことを実践して示しているとも言えるだろう。

この理論を適用した場合、Llamaライセンス契約はLlamaモデルの出力を経由しても伝播することになり、Llamaモデルの出力をまとめた合成データセットを作成してそれをトレーニングデータセットとしてAIモデルを開発した場合、合成データセットとAIモデル双方にLlamaライセンス契約が伝播するという解釈になるだろう。これは著作権を利用したコピーレフトの仕組みをはるかに越える契約のチェーンを作り上げることにつながる。

ただし、この合成データを介しての契約の伝播性は、知的財産権の範囲や従来のソフトウェアにおけるライセンスや使用許諾契約の常識を超えるものであり、司法がどのように判断するかを推測する判例と言えるものは乏しく、法的な不確実性が存在すると考えられる。例えば、Llama出力をブログ記事等でそのまま公開し、それがまわりにまわってAIトレーニングに利用されたとして、そのトレーニング結果によるモデルへLlamaライセンス契約を適用する必要性は極めて薄いだろう。かといって大々的に出力から合成データを作成し、AIのトレーニングへ利用すれば、Meta社はLlamaライセンス契約が伝播されなければならないという主張をするのではないかと考えられるし、契約上はそのように解釈する方が自然である。

なお、いわゆる合成データ経由での契約の伝播は、他のライセンスや契約が適用されたAIモデルにも追加のトレーニングによってLlamaライセンス契約が伝播すると考えられ、そのモデルが元々寛容なオープンソースライセンスが適用されていたのであれば矛盾は発生しないものの、他の利用規約が付いているようなライセンスや契約の場合は法的条件が矛盾する可能性も考慮しなければならない。利用規約は基本的に禁止事項が書かれているので、それらは併存するライセンスと契約の利用規約を全て論理和を取ったものとなる。契約上のライセンス条件にどうしても双方の義務を履行することができない条件が存在すれば契約が矛盾することとなり、契約は終了せざるを得ないだろう。Llamaであれば先頭にLlamaを含める名称制限は矛盾しやすいと考えられるが、利用規約側でも矛盾が発生する可能性はあるだろう。

むすび

Llamaコミュニティライセンス契約はオープンソースには全く適合しない不自由なライセンスであるにも関わらず、AIの透明性や信頼性確保のために「妥当な倫理のためのガイドライン」を備えた無料のオープンソース的なモデルとして喧伝する一派が存在する。本稿で明らかとしたように、Llamaライセンス契約における商業規模の閾値制限、強力で随時変更可能な利用規約の存在、出力データを介したコピーレフトを超える強い契約の伝播性といった性質は通常のソフトウェアのライセンスを大幅に超える拡張に挑戦するものである。単に無料のオープンなモデルであると想定している企業や個人も多いと想定されるが、派生モデルを介した事実上の全てのエンドユーザーの行動制限をかける仕組みであることを理解する必要があるだろう。

Llamaライセンス契約及び利用規約を注意深く読み、継続的に監視しなければ、自社の事業や評判に重大な影響を及ぼす危険に晒される可能性があることを留意すべきである。

参考:

Llamaライセンス契約のオープンソースへの適合性について
https://shujisado.com/2025/01/15/llama_is_not_opensource/

オープンソースAIとは何か? –「オープンソースAIの定義 v1.0」詳細解説
https://speakerdeck.com/shujisado/opunsosuaitohahe-ka-opunsosuainoding-yi-v1-dot-0-xiang-xi-jie-shuo


Llama 3.1 コミュニティライセンス契約 日本語参考訳

Llama 3.1 バージョンリリース日: 2024年7月23日

「契約」とは、本契約書に記載されているLlamaマテリアルの使用、複製、頒布および改変に関する条件を指します。

「ドキュメンテーション」とは、Metaが https://llama.meta.com/doc/overview にて頒布するLlama 3.1に付随する仕様書、マニュアル、および文書を指します。

「ライセンシー」または「あなた」とは、あなた、あなたの雇用主、またはこの契約をその人または団体のために締結している場合、法的な同意を提供するために必要な年齢に達しており、かつその雇用主またはその人や団体を法的に拘束する権限を持っているその他の個人または団体を指します。

「Llama 3.1」とは、Metaが https://llama.meta.com/llama-downloads で頒布する機械学習モデルコード、トレーニングモデルの重み、推論を可能にするコード、トレーニングを可能にするコード、ファインチューニングを可能にするコード、およびこれらに付随するその他の要素を含む、大規模言語モデルおよびソフトウェアおよびアルゴリズムを指します。

「Llamaマテリアル」とは、本契約の下で提供されるMeta独自のLlama 3.1およびドキュメンテーション(およびその一部)を総称して指します。

「Meta」または「我々」とは、あなたもしくはあなたが法人である場合に主たる事業所ががEEAまたはスイスに所在する場合はMeta Platforms Ireland Limited、その他の場合はMeta Platforms, Inc.を指します。

以下の「同意する」ボタンをクリックするか、Llamaマテリアルの一部または要素を使用または頒布することにより、あなたは本契約に拘束されることに同意することになります。

  1. ライセンスの権利と再頒布
    a. 権利の付与: あなたは、Llamaマテリアルに含まれるMetaの知的財産またはその他の権利に基づいて、Llamaマテリアルを使用、再製、頒布、コピー、派生作品の作成、および改変するための非独占的、世界的、譲渡不可能でロイヤルティフリーの限定的なライセンスが付与されます。

    b. 再頒布と使用:
    i. あなたがLlamaマテリアル(またはその派生作品)またはLlamaマテリアルを含む製品やサービス(他のAIモデルを含む)を頒布もしくは利用可能にする場合、あなたは (A) 当該のLlamaマテリアルとともに本契約書の写しを提供し、(B) 関連するWebサイト、ユーザーインターフェース、ブログ投稿、概要ページ、または製品ドキュメントに「Built with Llama」を明示的に表示しなければなりません。LlamaマテリアルまたはLlamaマテリアルの出力若しくは結果を使用して、AIモデルを作成、トレーニング、ファインチューニング、または改良し、それを頒布する場合、そのAIモデル名の先頭に「Llama」を含めるものとします。

    ii. あなたがライセンシーから統合エンドユーザー製品の一部としてLlamaマテリアルまたはその派生作品を受け取った場合、本契約の第2条はあなたに適用されません。

    iii. あなたが頒布する全てののLlamaマテリアルのコピーには、「Notice」テキストファイル内に次の帰属表示を保持する必要があります:「Llama 3.1はLlama 3.1 コミュニティライセンス契約の下でライセンスされています。Copyright © Meta Platforms, Inc. All Rights Reserved.」

    iv. あなたによるLlamaマテリアルの使用は、適用される法律および規制(貿易コンプライアンスに関する法律および規制を含む)を遵守し、Llamaマテリアルに関する利用規約(https://llama.meta.com/llama3_1/use-policy で入手可能)に従う必要があります。このポリシーは、参照することによって本契約に組み込まれます。
  2. 追加の商用条件: Llama 3.1のバージョンリリース日において、ライセンシーまたはライセンシーの関連会社によって、もしくはライセンシーまたはライセンシーの関連会社に対して提供される製品またはサービスの月間アクティブユーザー数が直前の暦月において7億人を超える場合、あなたはMetaからのライセンスを要求しなければならず、Metaは独自の裁量であなたにライセンスを付与することができ、Metaが明示的に当該権利をあなたへ付与しない限り、もしくは付与するまで、あなたは本契約に基づく権利を行使することは許可されません。
  3. 保証の免責: 適用法で義務付けられていない限り、Llamaマテリアルおよびそれらから生じるあらゆる出力および結果は、「現状有姿」で提供され、いかなる種類の保証も付されず、Metaは明示的または黙示的かを問わず、所有権、非侵害、商品性、または特定の目的への適合性に関する保証を含むがこれらに限定されずあらゆる種類の保証を全てを否認します。あなたは、マテリアルを使用または再頒布することの適切性を判断する全責任を負うものとし、Llamaマテリアル、出力、結果の使用に関連するリスクを全て負うものとします。
  4. 責任の制限: いかなる場合においても、Metaまたはその関連会社は、契約、不法行為、過失、製造物責任、またはその他の責任理論に基づくかを問わず、本契約に起因する逸失利益または間接的、特別、結果的、偶発的または懲罰的損害賠償について、Metaまたはその関連会社がこれらの可能性を認識していたとしても、一切責任を負わないものとします。
  5. 知的財産:
    a. 本契約の下で商標ライセンスは付与されず、Llamaマテリアルに関連して、Metaまたはライセンシーのいずれも他方またはその関連会社が所有する、またはそれらに関連する名称または商標を使用することはできません。ただし、Llama素材を合理的かつ慣例的に説明し再頒布するために必要な場合、または本第5条(a)項に定める場合を除きます。Metaは、本契約により、第1条b項iの最後の文章に従うために必要な場合のみ、「Llama」(「マーク」)を使用するライセンスを貴社に付与します。あなたはMetaのブランドガイドライン(現在は https://about.meta.com/brand/resources/meta/company-brand/ でアクセス可能)を遵守するものとします。マークの使用から生じるすべてののれんは、Metaに帰属するものとします。

    b. Metaが作成したLlamaマテリアルおよびMetaによるまたはMetaのための派生物の所有権に従い、あなたが作成したLlamaマテリアルの派生作品および改変作品に関しては、あなたとMetaの間で、あなたは現在および今後もそれらの派生作品および改変作品の所有者となります。

    c. あなたがMetaまたは他の法人に対して、訴訟またはその他の手続き(訴訟における反訴または反論を含む)を起こし、LlamaマテリアルまたはLlama 3.1の出力や結果、またはいずれかの一部があなたの所有またはライセンス付与可能な知的財産権またはその他の権利を侵害していると申し立てる場合、訴訟または申し立てが提起または開始された時点で、本契約に基づきあなたに付与されたライセンスは終了するものとします。あなたは、Llamaマテリアルの使用または頒布に起因もしくは関連する第三者からの請求について、Metaを免責し、損害を与えないものとします。
  6. 期間および終了: 本契約の期間は、あなたが本契約を受け入れるかLlamaマテリアルにアクセスした時点で開始され、本契約の条件に従って終了するまで有効に継続するものとします。Metaは、あなたが本契約のいずれかの条項に違反した場合、本契約を終了することができます。本契約が終了した場合、あなたはLlamaマテリアルを削除し、その使用を中止するものとします。第3条、第4条および第7条は本契約の終了後も有効に存続するものとします。
  7. 準拠法および管轄権: 本契約は、法の選択に関する原則に関わらず、カリフォルニア州法に準拠し、解釈されるものとし、国際物品売買契約に関する国連条約は本契約には適用されないものとします。本契約に起因する紛争に関しては、カリフォルニア州の裁判所が排他的管轄権を有するものとします。

Llama 3.2 Acceptable Use Policy(利用規約) 日本語参考訳

Metaは、Llama 3.2を含むそのツールおよび機能の安全かつ公正な利用を促進することに努めています。Llama 3.2にアクセスまたはこれを使用する場合、本利用規約(以下「規約」)に同意したものとみなされます。本規約の最新版は、https://www.llama.com/llama3_2/use-policy でご覧いただけます。

禁止されている利用

私たちは、誰もが Llama 3.2 を安全かつ責任を持って使用してほしいと考えています。あなたは、以下の行為のためにLlama 3.2を使用しないこと、また他者による使用を許可しないことに同意するものとします。

  1. 法律または他者の権利を侵害する行為、具体的には以下を含みます:
    a. 以下の違法または不法な活動またはコンテンツに関与、促進、作成、寄与、奨励、計画、扇動、または助長すること。
    i. 暴力若しくはテロ行為
    ii. 児童搾取的コンテンツの勧誘、作成、取得、または普及、または児童性的虐待的コンテンツの報告の不履行を含む児童に対する搾取または危害
    iii. 人身売買、搾取、および性的暴力
    iv. 未成年者に対する情報または素材の違法な配布(わいせつな素材を含む)、またはそのような情報または素材に関連して法的に要求される年齢制限の適用を怠ること。
    v. 性的勧誘
    vi. その他の犯罪行為
    b. 個人または個人グループに対する嫌がらせ、虐待、脅迫、またはいじめへの関与、促進、扇動、または促進
    c. 雇用、雇用手当、信用クレジット、住宅、その他の経済的利益、またはその他の必要不可欠な商品およびサービスの提供における差別またはその他の不法または有害な行為の関与、促進、扇動、または促進
    d. 金融、法律、医療/健康、または関連する専門的業務を含むがこれらに限定されない、あらゆる専門職の無許可または無免許の業務に従事する
    e. 適用される法律で要求される権利および同意なしに、個人に関する健康健康、人口統計情報、またはその他の機密性の高い個人情報またはプライバシー情報を収集、処理、開示、生成、または推測すること
    f. Lamaマテリアルを使用した製品またはサービスの成果または結果を含む、第三者の権利を侵害、不正利用、またはその他の方法で侵害する行為に関与または容易にしたり、コンテンツを作成したりすること
    g. 悪意のあるコード、マルウェア、コンピュータウイルスを作成、生成、またはその作成を容易にしたり、Webサイトまたはコンピュータシステムの適切な動作、完全性、操作、または外観を無効にしたり、過剰な負荷をかけたり、妨害したり、損なったりする可能性のあるその他の行為を行うこと
    h. 使用制限またはその他の安全対策を故意に回避または削除する行為、またはMetaによって無効化された機能を使用可能にする行為を行うこと、またはそのような行為を助長すること
  2. 以下の内容に関連するLama 3.2の使用を含め、個人に対して死亡または身体的な危害のリスクをもたらす活動の計画または開発に従事、もしくはそのような活動を宣伝、扇動、助長、支援すること
    a. 軍事、戦争、原子力産業またはその用途、スパイ行為、米国国務省が管理する国際武器取引規則(ITAR)の対象となる物品または活動への使用
    b. 銃および違法な武器(武器開発を含む)
    c. 違法薬物および規制・管理物質
    d. 重要なインフラストラクチャ、輸送技術、または大型機械の運用
    e. 自傷または他者への危害(自殺、自傷行為、摂食障害を含む)
    f. 暴力、虐待、または個人に対する身体的危害を扇動または助長する意図を持つコンテンツ
  3. 以下に関連するLama 3.2の使用を含め、故意に他人を欺いたり、誤解を招くような行為
    a. 詐欺行為、または偽情報の作成、宣伝、促進、または助長する行為
    b. 中傷的な発言、画像、その他のコンテンツの作成を含む、中傷的なコンテンツの生成、促進、または助長
    c. スパムの生成、宣伝、または配布の助長
    d. 同意、承認、法的権利なく他者を装うこと
    e. Llama 3.2の使用または出力が人間による生成であると表明すること
    f. 偽のレビューやその他の偽のオンラインエンゲージメント手段を含む、偽のオンラインエンゲージメントの生成または助長
  4. あなたのAIシステムに存在する既知の危険性をエンドユーザーに適切に開示しないこと
  5. 違法なコンテンツの生成、違法または有害な行為を目的として設計された第三者のツール、モデル、ソフトウェアと相互に作用すること、および/または、そのようなツール、モデル、ソフトウェアの出力がMetaまたはLlama 3.2に関連していると表明すること

Llama 3.2に含まれるマルチモーダルモデルに関して、あなたがEUに居住する個人または主たる事業所をEUに置く企業である場合、Llama 3.2コミュニティ・ライセンス契約のセクション1.aに基づいて付与される権利はあなたへ付与されません。この制限は、そのようなマルチモーダルモデルを組み込んだ製品またはサービスのエンドユーザーには適用されません。

本規約に対する違反、ソフトウェアの「バグ」、または本規約に対する違反につながる可能性のあるその他の問題については、以下のいずれかの方法で報告してください。

モデルに関する問題の報告: https://github.com/meta-llama/llama-models/issues
モデルによって生成されたリスクのあるコンテンツの報告: developers.facebook.com/llama_output_feedback
バグやセキュリティに関する懸念の報告:facebook.com/whitehat/info
利用規約違反またはLlama 3.2の無許諾使用の報告:LlamaUseReport@meta.com