LinkedInを利用する意義

LinkedInは世界最大のビジネス向けのSNSらしい。ただ、日本ではとりあえず登録したものの人材、不動産、マルチと謎のVIPやセレブからの怪しい勧誘がやってくるサイトという認識を持っている方のほうが多いのではないだろうか。転職に使えないことはないのかもしれないが、他の転職サイトや下手をするとTwitterのほうが日本では転職に使えるケースが多いだろう。

そんなLinkedInであるが、特にアメリカでは転職時にはリファレンス(推薦状)が必要なため、上司と部下の関係性を良好に保ち、相互に必要なリファレンスをいつでも取得できるようにしておくためのプラットフォームとしてLinkedInは必須の存在に登りつめた。そのため、ほとんどの社員がLinkedInに登録しているという会社も多かったように思う。おかげでLinkedInで所属の人数を確認するだけでその会社のヘッドカウントも推測できた。

日本では元上司からの推薦状を必要とする状況がほぼないのでやはりLinkedInの重要性は薄いわけだが、私は2005年あたりから10年以上の間、LinkedInの定期的なチェックを欠かすことはなかった。何故ならLinkedInでのちょっとした変化を調べ続けることで、企業の人事や戦略を正式なリリースに頼らずに把握することが可能になることが割と多かったからである。

例えば、その企業にはそれまでいなかった特定の技能を持つ人間の採用活動をしているか、もしくは実際に誰かが入社したということであれば、何か新しい事業を開始しようとしていることが分かるし、採用規模からその事業への投資規模も大体把握ができる。また、その企業のグループに所属のメンバーが減ることがあれば退職者が出たと分かるし、その人間の動向を見れば転職なのか解雇なのか分かる。解雇であればどの程度の規模であるか調べれば特定の事業や部署の廃止、縮小が分かり、戦略の変更を察知することもできるのである。

私が長くトップを務めたOSDN株式会社(前身のOSDN事業部含む)の米国のパートナー会社は、元々のVA Linux Systems社からOSDN社(私が経営したOSDN社とは別会社)、OSTG社、Geeknet社、Dice社と変遷していったが、こういった大きな変化の際には人事は一新され、全く別の戦略が取られることになる。ライセンス契約を切られればそこでオシマイという立場としては、その度に日本のパートナー会社との関係だけは崩せないと米国側に思わせるためにまず人事の情報を把握し、次にどのような戦略を取ろうとしているのか推測し、そこへ先回りするという手段を取っていた。如何に事業規模が違いすぎると言っても、自分たちが取ろうとしている戦略を一部実現することを既に着手していたり、そのための周辺の環境調査を実施済みであったりということを初回のカウンターパートとの対面で切り出されれば、その関係を壊そうとは思わないものである。

そのおかげか米国側がトップが変わると極東の小さなパートナー会社のトップである私が先方の会社の歴史を解説するという不思議なことが複数回発生するまでになったが、いつの交渉や会合の時も米国側は佐渡が何故それを知っているのか不思議そうにしていた。もちろんLinkedInだけが情報源ではないが、大抵のことはネットに書いてあるのである。

サイト規模も売上規模も数十倍の差があり、唯一の海外パートナーという不安定な立場を2015年まで継続できたのは今振り返ると驚異的だと思うが、結局関係を終わらせるという最後の決断にもLinkedInから得られた情報が若干だが後押ししていたりする。この時は様々な外部要因があったわけだが、パートナー会社の上層部とその親会社の動きからパートナー会社が機能不全に陥ることを予測し、踏み切ったという側面がある。

昔の同僚が今もオープンソースに関わるジョブにまだ就けているなとかどうでもいいことを確認することにもLinkedInは使えるが、このように人の流れを追っていくとその所属企業が次に何をするのかある程度予測できるということが、私が考えるLinkedInを利用する意義である。最近ではチェックする機会はあまりないのだが、たまたま昔のボスがAWSのVPになっていたおかげで新サービスを予知することもできた。

ただし、このような手法は日本企業ではほぼ使えないのだが。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。